愛する男に裏切られたら、その男の命を奪い、水に還る――。現代都市ベルリンに甦る、ウンディーネ(水の精)の悲恋物語。

現代に蘇る愛の神話

ベルリンの博物館でガイドを務める歴史研究者のウンディーネ。ある日、恋人のヨハネスから別れ話を切り出される。ほかに女ができたのだ。

「あなたを殺すはめになるわ。分かってるわね」。ショックを受けながらも脅し文句を口にするウンディーネだが、ヨハネスを翻意させることはできない。

悲嘆にくれるウンディーネの前に、別の男が現れる。潜水作業員のクリストフだ。博物館でウンディーネの話を聞き感動したと言う。

そんな二人の身体に、割れた水槽から大量の水が降り注ぐ。たちまち二人は激しい恋に落ちる。

原題は「UNDINE」(ウンディーネ)。ヒロインの名でもあるが、“水の精”という意味を持つ。ギリシャ神話に登場するニンフが起源とされ、ドイツ・ロマン派の作家フリードリヒ・フーケの「ウンディーネ」をはじめ、数多の芸術作品に霊感を与えてきたモチーフだ。

愛する男が裏切れば、その男の命を奪い、水に還る――。19世紀の悲恋物語を、「東ベルリンから来た女」(12)、「あの日のように抱きしめて」(14)のクリスティアン・ペッツォルト監督が、現代ドイツの物語として描き直した。

此岸と彼岸との間(あわい)で生きるウンディーネ。ペッツォルト監督は、このミステリアスなヒロインを、ベルリンの無機質な空間に、モダンで知的な女性として登場させ、21世紀ヴァージョンの神話を生み出すことに成功している。

上述したように、潜水作業員や水槽など、設定や道具立てに工夫を凝らし、さらには都市の起源にまで言及することで、ベルリンと“水の精”との縁(えにし)を結んでいるのだ。

ウンディーネとクリストフの恋は順調に進むかに思える。だが、別れたはずのヨハネスが復縁を求めてきたことで、運命が変わる。

隠し続けてきたヨハネスとの過去を、クリストフに疑われる。ウンディーネはいったん否定したものの、思い直して真実を告白しようとするが――。

「あなたを殺すはめになるわ」という冒頭のセリフが生きてくる、終盤の展開がスリリング。過去作でペッツォルト監督が見せてきたサスペンス演出の技が、ここでも冴えわたる。

ファンタスティックだが不気味な水中映像、クリストフと会うためウンディーネが乗る列車の車窓を流れる水彩画のような風景も素晴らしい。

『水を抱く女』(2020、ドイツ/フランス)

監督:クリスティアン・ペッツォルト

出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ

2021年3月26日(金)より、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他全国ロードショー。

公式サイト:https://undine.ayapro.ne.jp

コピーライト:© SCHRAMM FILM/LES FILMS DU LOSANGE/ZDF/ARTE/ARTE France Cinéma 2020