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チベット映画特集「映画で見る現代チベット」

2021年3月12日
コロナ禍のため3週間で上映中止となった「巡礼の約束」をもう一度。そんな配給会社・劇場の思いから実現したチベット映画特集。

珠玉のチベット映画7本

昨年2月に公開されるもコロナ禍の憂き目に遭い、3週間で上映打ち切りとなった「巡礼の約束」(2018)。見逃した映画ファンも多いであろう本作の再上映が果たされることを、まずは大いに喜びたい。

「巡礼の約束」

本作は、「草原の河」(2015)で卓越した演出力を見せ、チベット映画への注目度を高めたソンタルジャ監督が、聖地ラサへの巡礼を通して、妻と夫、父親と息子、それぞれの絆を描いたロードムービーである。

重病に冒されたウォマが、病状を夫のロルジェに隠して、聖地ラサへの巡礼を決行する。1日5キロ、半年がかりの過酷な旅だ。

二人の女性がサポート役で同行するが、途中で姿をくらましてしまう。それでもウォマは一人で旅を続ける。なぜウォマはそこまで巡礼にこだわるのか――。そこには、死別した前夫とのある約束があった。

いずれにせよ、重病のウォマが巡礼を完遂するのは無理なことは明白。ウォマの後を引き継ぐことになるのは、ロルジェと息子のノルウである。こうして、ウォマの物語はロルジェとノルウの物語へと転換する。

ウォマがノルウに託したリュックサック。そっと中身を覗いたロルジェが発見したものとは――。

妻の過去から目を背け、血の繋がらない息子を遠ざけてきた夫が、逃げられない現実と向き合い、嫉妬と格闘する。そして、自らの内に父性を目覚めさせ、新たな人生へと歩を進める。

妻が始めた巡礼の旅が、夫にとっての試練の旅となる――そのストーリー構成の鮮やかさに舌を巻く。ソンタルジャの才覚が遺憾なく発揮された傑作だ。

「ラモとガベ」

「ラモとガベ」(2019)は、今回が日本プレミア上映となるソンタルジャ監督の最新作。結婚を前にした男女が、互いの過去に翻弄され、思わぬ運命に見舞われる物語である。

婚姻届を出しに役場に赴いたラモとガベ。ところが、そこで驚きの事実が発覚する。ガベがとっくに別れたはずの前妻とまだ離婚していないことになっていたのだ。

あわてて前妻の行方を捜すガベ。へそを曲げるラモ。何と、前妻はガベと別れた後に出家していた。ガベは前妻の居場所を突きとめ、離婚届にサインしてもらう。一方、ラモにはガベに話していないある秘密があった――。

だらしないガベの女性関係に、花嫁のラモが泣かされる。そんな話と思っていたら、実は、純情なのはガベのほう。ラモはとんでもなくしたたかな女性なのだった。

さらに追い打ちをかけるように、前妻の出家に別の男が絡んでいた事実も明かされ、ラモは呆然となる。

妻や恋人の過去に男が振り回されるという構造は、「巡礼の約束」と共通。仏教のストイックなイメージを抱きがちなチベットだが、自らの人生を主体的に選択する女性の姿を描いた本作には、通俗的なチベット観をひっくり返すパワーがある。

ソンタルジャ監督作は、上記2作以外に「草原の河」と、劇場未公開のデビュー作「陽に灼けた道」(2011)が上映される。

他の上映作品は、ペマ・ツェテン監督の「オールド・ドッグ」(2011)、「タルロ」(2015)と、いずれも東京フィルメックスでグランプリに輝いた劇場未公開作、およびチャン・ヤン監督の「ラサへの歩き方」(2015)。

チベット映画特集「映画で見る現代チベット」

映画で見る現代チベット

公式サイト:http://moviola.jp/tibet2021/

◆ソンタルジャ監督作

『ラモとガベ(原題)』(2019)

『巡礼の約束』(2018)

『草原の河』(2015)

『陽に灼けた道』(2011)

コピーライト(以上4作):©GARUDA FILM

◆ペマ・ツェテン監督作

『タルロ』(2015)

『オールド・ドッグ』(2011)

◆チャン・ヤン監督作

『ラサへの歩き方~祈りの2400km 』(2015)

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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