外国映画

映画レビュー「聖なる犯罪者」

2021年1月14日
「僕は司祭だ」。少年院を出たばかりの若者がついた嘘。だが、村人たちは真に受け、やがて偽司祭の信奉者となっていく。

犯罪者が聖職者に

殺人を犯し少年院に入っていたダニエル。仮退院し、更生のため小さな村の製材所で働くはずだった。ところが、とある教会に立ち寄ったことで、予期せぬ事態を招いてしまう。

教会で出会ったマルタという少女。正体を尋ねる彼女に「僕は司祭だ」と咄嗟に嘘をついてしまうのだ。まさか本当に騙せるとは思わなかったろうに、マルタは素直に信じてしまう。

引くに引けない状況に追い込まれたダニエルは、アルコール依存症の神父に代わり、司祭を務めることになる。神父になりたかった。叶わぬ夢だった。それが実現してしまった。まさに瓢箪(ひょうたん)から駒である。

少年院で彼を導いてくれたトマシュ神父の名を騙(かた)り、見様見真似でミサを取り仕切る。自己流の説法ではあるが、村人たちはじっと聴き入り、しだいにダニエルの熱心な信奉者となっていく。

犯罪者の顔を隠して、聖職者になりすます。そんな単純な話ではない。悪意があるわけではない。図らずも与えられてしまった聖職者という役割を、誠実にこなしているだけなのだ。

その言葉に力があるのは、自ら悪事に手を染め、厳しい罰を受けた過去があるせいか。生々しい実体験に裏打ちされた説教だからこそ、村人たちの心を打つのだろう。

だからといって、犯罪者としての過去が清算されているわけではない。生まれ変わったわけではない。染みついた暴力性と享楽性は、心の裡でマグマのように息づき、きっかけさえ与えられれば、大爆発を起こそうと待ち構えている。ダニエルには、つねにそんな危うい気配が付きまとう。

天使のようなやさしい笑みを湛えていたかと思うと、次の瞬間には残酷で凶暴な表情が現れる。聖性と獣性が同居するダニエルというキャラクターが、バルトシュ・ビィエレニアの、まさしく神がかった演技によって、生々しいまでに血肉を獲得している。

はたして正体はどのように暴かれるか。そのとき、ダニエルはいかなる行動をとるのか。ラストの痛烈な一撃に、しばし呆然とさせられる。

聖なる犯罪者

2019、ポーランド/フランス

監督:ヤン・コマサ

出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ、トマシュ・ジィェンテク

公開情報: 2021年1月15日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷ホワイト シネクイント他 全国ロードショー

公式サイト:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/

コピーライト:© 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewódzki Dom Kultury W Rzeszowie – ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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