日本映画

映画レビュー「佐々木、イン、マイマイン」

2020年11月27日
上京して役者を目指すが、一向に芽が出ない悠二。ある日、旧友と再会し、高校時代に親友だった“佐々木”との日々を思い出す――。

全編に息づく初期衝動

地方の高校を卒業し、上京した悠二。役者になるのが夢だが、27歳になっても一向に芽が出ず、工場の単純労働で日銭を稼ぐ毎日だ。ユキという恋人はいるが、とっくに破局。なのに、別れられず同棲を続けている。

仕事も恋愛もイマイチ。情も志もあるのだが、不器用なせいか、エネルギーは空回りするばかり。

ある日、高校時代の友人・多田と再会。旧交を温めながら、話題は“佐々木”に及ぶ。

佐々木は、悠二と多田、そして木村とつるんで遊んでいた仲良し4人組の一人。破天荒なキャラの持ち主で、クラスの名物男だった。

「佐々木!佐々木!」という悠二らのコールが始まると、いきなり服を脱ぎ出し、女子生徒の目も気にせず、ストリップ・ショー。だが、心根はやさしく、悠二にとっては一番の親友だった。

映画は、悠二と佐々木との交流を軸に、多田と木村も含めた4人の過去と現在を行き来しながら進んでいく。

回想シーンでは、青春期特有の感情の爆発、将来への漠然とした不安など、誰にも心当たりがあるだろう、あの頃の気分が生々しく描かれている。

その中でも、とりわけ心に突き刺さるのは、佐々木がなぜ学校であれほど狂気じみた自己を演じなければならないのか、その手がかりとなる家庭の描写だ。

散乱する雑誌、画集、ゴミ…。足の踏み場もない部屋だが、壁には佐々木自身が描いた絵が飾られ、棚にはぎっしりと書物が並ぶ。

ふざけた男に見えるが、実は真面目で、芸術家肌の男なのだろう。だが、唯一の家族である父親はたまにしか帰宅せず、家庭の外で何をしているかは不明である。

いわゆるワケアリの家庭。学校で真っ裸になっておどけるのは、過酷な現実から逃避するためのパフォーマンスなのかもしれない。

そんな佐々木との懐かしい日々を振り返りながら、悠二は、舞台で大きな役を演じるため稽古に励む。同時に、宙ぶらりんとなっているユキとの関係にも決着をつけようとするのだが――。

佐々木と3人との空気感を変えることとなった出来事、卒業から5年後に突然かかってきた佐々木からの電話、そして、さらにその5年後、佐々木の友人だというある女性からの電話。いくつかのエピソードを通して、悠二はその時々の佐々木と向き合い、そして自分の人生とも向き合い直していく。

悠二が舞台で演じる役柄が、現実の悠二の姿と重なり、驚愕のラストへと疾走していく展開が圧巻。佐々木への思いと、人生への思いが、一つに溶け合って、膨れ上がったエモーションが現実を突き抜ける。

何が何でもこの映画を撮りたい。そんな心の奥底からの初期衝動が全編にあふれた力作である。

佐々木、イン、マイマイン

2020、日本

監督:内山拓也

出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太郎、森優作、小西桜子、河合優実、井口理(King Gnu)鈴木卓爾、村上虹郎

公開情報: 2020年11月27日 金曜日 より、新宿武蔵野館他 全国ロードショー

公式サイト:https://sasaki-in-my-mind.com

コピーライト:© 「佐々木、イン、マイマイン」

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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