岡崎京子がバブル期を舞台に描いた青春漫画を、瀬田なつき監督が、現代の東京を舞台に映画化。二人の交わらない恋の行方は?

叶わぬ恋の平行線

ケンイチは年上の女性に一目ぼれ。そんなこと知らずに、ハルコはケンイチを運命の相手と思い定める。叶わぬ恋の平行線は、やがて、ついに――。バブル期の1989年に出版された岡崎京子の原作を映画化した「ジオラマボーイ・パノラマガール」。東京ベイエリアというロケーションを存分に生かし、瀬田なつき監督が唯一無二の青春映画を生み出した。

原作と映画との違いは

――まず、岡崎作品を映画化した経緯についてお聞きしたいのですが。

「PARKS パークス」(2017)を監督したときのプロデューサーから、「岡崎京子さん原作作品の映画化に興味はありますか?」とお話がありまして、岡崎作品はよく読んでいたので、「ぜひ」とお返事したんです。

――ストーリーはどのように組み直したのですか。

原作はいろんなエピソードが詰まっているので、何を取捨選択し、どこをメインにするかで、けっこう悩みました。ハルコの一目ぼれから始まって、最後に自分の気持ちをケンイチに伝える。でも、その気持ちは、本当にハルコが思っていたことなんだろうか――。この大きな流れの中に、原作で好きなエピソードを嵌め込んでいきました。

――キャラ設定なども原作とは変わっていますね。

時代に合わせて変えたり、実写にすると難しい設定を、ストーリーに合う形に変えたりしました。一番大きいのはカエデですね。原作では、転校しちゃう女の子と、自分をイスだと思っている引きこもりの女の子がいて、二人とも面白いとは思ったんですが、二人をバラバラに出すと、話がそれてしまう。それで、二人を合わせたカエデという登場人物を創り出しました。

――ケンイチが夢中になるマユミのキャラ設定も大きく変わっています。

大きく変えたつもりはなかったのですが、ハルコとケンイチの「好き」という気持ちを揺さぶれるような女性になるとよいなと思いました。彼女の、生き方や価値観、消費社会への見方みたいなものを、岡崎さんの女性の描き方、いまの時代を合わせて考えました。年上にしたのは、女子高生だと生々しくなるし、過激になる。学校はどうするんだという問題もありますし(笑)。森田望智さんが、すごく良い形で演じてくれました。

――原作との違いについてもう少し。舞台を郊外からベイエリアに移した理由は何でしょう?

ベイエリアが好きというのもありますが、岡崎さんの原作が書かれた頃はちょうどバブル期で、都市の再開発が進んでいた。その未完成な感じと、埋め立て地の殺伐とした感じが、作品に合うような気がしたんです。

作りかけというか、まだ中途半端な街、出来上がっていない街。これから何か始まっていきそうな街というのが、未成年のふたりのストーリーに合うかなと。

マンガの背景にはクレーンもたくさん描かれていますが、ちょうどオリンピックの選手村とか競技場を建設していて、クレーンもたくさん聳(そび)えていた。それで、あの場所に決めました。

――大きな歩道橋の上と下で、二人がすれ違う。その感じもいいですね。

すれ違うとき上下でクロスできたら、普通とちょっと違う空間になると思ったんです。月島などの下町エリアには一軒家がけっこうあって、ケンイチはそっちに住んでいる。一方のハルコは開発エリアのマンション。街の差を出しつつ、二つを結ぶ橋の上ですれ違うという舞台設定です。

シネスコなのに縦の動きで苦戦

――主役の二人の演技はどうでしたか。

ハルコ役の山田さんは、すごく考えて演技してくれる人です。ハルコは突発的に行動するけど、嫌味がない子。真剣に悩んで、じたばたする感じを、愛らしくチャーミングに演じてくれました。

ケンイチ役の鈴木くんは、オーディションのときにメガネをかけてもらったら、原作のケンイチそっくり。本人自身もクールで、かといってやる気がないというのでもない、何かふわっとした雰囲気がありました。

――つかみどころがない?

そうですね。まさにつかみどころがない感じがケンイチっぽいと思いました。

――ハルコが渋谷のイベントでケンイチとマユミとのツーショットを目撃し、ヤケになって行きずりの男とキス。そのあと街を疾走して、夜明けに親友と合流して、という怒涛の展開がありますが、山田さんの演技が絶品でしたね。

その一連は、撮影順がバラバラだったので、難しかったと思うのですが、山田さんは、シーンの意味を汲み取って演技を組み立ててくれて、大胆に、思い切って表現してくれました。

役に入り込んで気持ちを作るというよりは、「用意、ハイ」って言ったらパチッて切り替わる。気になるところを指摘すれば、すぐにこちらの意図をキャッチしてくれる。ハルコは山田さんだから成立した部分が大きいと思います。

――長編デビュー作の「嘘つきみーおくんと壊れたまーちゃん」(2011)を見たときに思ったんですが、各ショットの完成度がとても高い。予め構図を決め込んで撮っているのですか。

事前にカット割の打ち合わせはしていますが、そんなにカチッと決めているわけではないです。役者には自由に演じてもらい、それを一番いい形でカメラに収めるようにしています。撮影チームがすごく優秀なので、どう映してもいいように柔軟に現場をつくってくれて、役者に細かく動きを指示する必要はありませんでした。

おっしゃるように「嘘つきみーくん」のときはもっと細かくやっていた気がするので、それは自分の中の変化かもしれません。

――シネスコという画面サイズを選んだのは。

タイトルのジオラマ、パノラマに引っ張られたというのもありますが、横に広く撮りたいなと思ってシネスコにしました。でも、意外に縦の動きが多くて、悩むこともありました。

――プラットフォームで二人が話すシーンがそうですね。ハルコがケンイチを見上げて喋るときには、ケンイチの頭が切れている。ケンイチが喋るところでは、ハルコの顔の部分が切れている。

ご指摘されたカットバックでは、二人の身長差が思ったより大きかったので、画面にどう入れるか、カメラマンも苦労していたと思います。

――切れていることで、想像がかき立てられる。行間めいたものが生まれる。サイズが逆に生きている。身長差があってよかったですよ。

そう言われると、よかったって気持ちになります(笑)。

――最後に、細かいことですが、ケンイチとマユミが泊るホテルのテレビに「百万両の壺」が映っています。個人的に山中貞夫監督がお好きなんですか?

好きは好きなんですけど…、脚本に古い映画がかかるみたいなことを書いていて、いま権利が切れている作品は何か、いくつかリストを挙げてもらったんです。それで、使うならコメディのほうがいいねということで、「百万両の壺」に決めました。そんなに深い意味があるわけではないんですよ。でも、「世知辛い江戸の町が〜」というセリフは、絶妙に劇中でシンクロしていました。ちなみに「鴛鴦歌合戦」も権利が難しかったのですが、候補の1本でした。

――ありがとうございました。

『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020、日本)

監督:瀬田なつき

出演:山田杏奈、鈴木仁、滝澤エリカ、若杉凩、平田空、持田唯颯、きいた、遊屋慎太郎、斉藤陽一郎、黒田大輔、成海璃子、森田望智、大塚寧々

2020年11月6日(金)より、新宿ピカデリー、ホワイト シネクイント他全国ロードショー。

公式サイト:http://gbpg2020-movie.com

コピーライト:©2020 岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会