外国映画

映画レビュー「おもかげ」

2020年10月22日
息子を失った女性が、10年後、息子の面影を宿した少年に出会う。女性は少年に誘われるまま、周囲の目も構わず、密会を続ける。

息子を失った女性の10年後

悲劇は電話の向こうで起きる。離婚した夫と旅行中の息子・イバンから、母親のエレナに電話がかかってきたのだ。海辺にイバンを残したまま森の中まで荷物を取りに行った父親が帰ってこないと言う。

現在地がどこか6歳のイバンには分からない。目印となるものもないようだ。警察に通報しても、まともに取り合ってもらえない。そうこうしている間に、イバンの携帯は電池を減らしていく。

男がイバンを見ている。近づいてくる。「逃げろ」と叫ぶエレナ。走り出すイバン。木の下に隠れる。だが、見つかった。電話が切れた。

イバンの姿は全く映さず、情報は電話の声だけ。この設定が効いている。息遣いと涙声が、エレナの想像力を最悪の方向へと導き、絶望のどん底へと突き落とすプロセスが、これでもかと効果的に描かれる。

この後、イバンはどうなったのか。生き延びたのか、死んでしまったのか。映画は、物語の焦点とも言うべき、事件の真相には触れることなく、10年後のエレナの生活へと飛ぶ。

エレナは、イバンが姿を消したフランスの海岸に住みつき、レストランで働いていた。ある夏の日、パリからバカンスに来ているブルジョア家族の少年ジャンに、エレナは目を引かれる。ジャンにイバンの面影を見たのだろうか。生きていれば同じ年頃でもある。

そっとジャンの後を追い、別荘を突きとめるエレナ。後日、ジャンはレストランにやってくる。エレナが自分の後をつけていたことを、ジャンは気づいていたのだ。「気まずい?」と尋ねるジャンに、エレナは主導権を握られる。

エレナはジャンに誘われるまま、二人きりの時間を過ごすようになる。年齢は離れているが、ジャンにも、エレナにも、互いを異性として意識している気配が濃厚だ。

実は、エレナにはヨセバという恋人がいる。やさしく誠実な大人の男性だ。にも関わらず、エレナはジャンに傾倒していくのである。

一方、ジャンにとって、エレナはどんな存在なのか。予想もしていなかったアヴァンチュールのチャンスを与えてくれた年上の女だろうか。

二人のいささか不道徳ともいえる交際は、ジャンの家族やヨセバとの関係に波紋を投げかける。

エレナとジャンは、そんな周囲の反応に構うことなく、密会を続けるのだが――。

ワンシーン・ワンカットの冒頭シーンは、ロドリゴ・ソロゴイェン監督が独立した短編「Madre」として発表したものが、ほぼそのまま使用されている。

息子を失ったエレナが、何年もの後に、息子そっくりな少年に出会ったら、何が起こるのか。「Madre」のその後を描いているが、10年の歳月を隔てることで、「Madre」からは想像もできない、エレナの女としての側面にフォーカスが当てられ、一筋縄ではいかない愛の物語が生み出された。

おもかげ

2019、スペイン/フランス

監督:ロドリゴ・ソロゴイェン

出演:マルタ・ニエト、ジュール・ポリエ、アレックス・ブレンデミュール、アンヌ・コンシニ、フレデリック・ピエロ

公開情報: 2020年10月23日 金曜日 より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他 全国ロードショー

公式サイト:http://omokage-movie.jp/

コピーライト:© Manolo Pavón

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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