外国映画

映画レビュー「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」

2020年10月8日
サンフランシスコの懐かしき我が家。思い出が詰まったこの家に、もう一度住みたい。ジミーの願いは叶うのか。

街の思い出と友情の物語

サンフランシスコ、フィルモア。二人の黒人青年が、白人の住む邸の窓枠をペンキで上塗りしている。

ヴィクトリアン様式のこの美しい家は、かつてジミーと家族との住処だった。ジミーは、今もこの家を誇りに思っている。

ところが、現在の住人である白人夫婦は、ペンキの剥げるのにもお構いなし。ジミーは、見るに見かねて、親友のモントとともに、無報酬で、この作業を続けているのだ。

なのに、夫婦は、そんな彼らの行為に感謝するどころか、トマトを投げつけ、追い返す始末。それでも、二人はめげずにまたやってくる。

やがて、夫婦は遺産相続でもめ、家を手放すことに。空家になったのをいいことに、ジミーはモントとその家に住みついてしまう――。

舞台となるサンフランシスコは、ゴールデン・ゲート・ブリッジやケーブルカーで知られる西海岸の大都市。ヒッチコックの「めまい」を筆頭に、多くの映画の舞台としても有名な街だ。

フィルモア(フィルモア・ウエスト)という地名そのままのライブハウスでは、60年代後半、本作でBGMとして使用されている「あなただけを」のジェファーソン・エアプレインをはじめ、英米の著名なミュージシャンがコンサートを行った。ロック文化、ヒッピー文化の拠点でもあった。

今や、サンフランシスコは大きく様変わり。大規模な再開発により、“マンハッタン化”が進み、若者が住める街ではなくなった。

しかし、ジミーは、古き良き時代の思い出から抜け出ることができない。だからこそ、懐かしの“我が家”に執着するのだ。

ところが、そんなジミーに衝撃の事実が告げられる。向き合いたくなかった現実を突き付けられ、ジミーの自尊心は破壊される。

夢を砕かれ、追い込まれたジミーが煩悶する悲痛なクライマックスに、胸が突かれる。

実は、このクライマックスを用意するのは、ほかでもない親友のモントだという点が、大きなポイントになっている。誰よりもジミーに寄り添い、理解してきた親友だからこそ、許される、荒っぽい行動。だが、それは友に対する精一杯の愛情の裏返しなのだ。

一人の青年の再出発を描くとともに、友情の本質について考えさせてくれる作品でもある。

サンフランシスコの歴史と主人公の人生とを重ね合わせた構成も見事。「花のサンフランシスコ」など音楽の使い方も素晴らしい。

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

2019、アメリカ

監督:ジョー・タルボット

出演:ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ティチーナ・アーノルド

公開情報: 2020年10月9日 金曜日 より、新宿シネマカリテ、シネクイント他 全国ロードショー

公式サイト:http://phantom-film.com/lastblackman-movie/

コピーライト:© 2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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