外国映画

映画レビュー「マーティン・エデン」

2020年9月17日
無学な労働者階級の男が、ブルジョアの令嬢に恋をし、小説家になる夢をいだく。階級社会の壁に挑んだ男の、壮絶な人生の物語。

ジャック・ロンドンの名作を映画化

主人公のマーティンは、ナポリの貧しい船乗り。ある日、暴漢に絡まれていたブルジョアの若者を助け、彼の住む豪邸まで送り届けた際、出迎えた美人の姉エレナと出会い、一目で恋に落ちる。

二人は生まれ育ちのギャップをものともせず、激しく愛し合う。しかし、立ちはだかる階級の壁は思いのほか堅牢だった、はたして二人は困難を乗り越え、愛を貫くことができるのか――。

一方、エレナと出会ったことで、教養に目覚めたマーティンは、それまで意識せずにきた自らの文学的才能に気づく。文学書を読み漁り、小説を執筆しては出版社に投稿し続けるマーティン。やがて、その努力が実り、ついに採用の報せが届くが――。

アメリカの作家ジャック・ロンドンの「マーティン・イーデン」を原作としたイタリア映画だ。階級を乗り越えた恋愛。そして小説家としての成功。本作はこの二つの夢に駆られた主人公の壮絶な人生を追っていく。

過酷で不当な肉体労働に見切りをつけ、執筆に専念することになるマーティンだったが、一向に芽が出ず、エレナとの距離は広がっていく。だが、突如として光明が訪れ、エレナとの関係も好転するかに思える。

ところが、浮かれるマーティンに、一人の男が冷や水を浴びせる。エレナの邸で開かれたパーティで知り合った老詩人ブリッセンデン(ブリス)だ。

上流階級の令嬢との幸せな生活に安んじようとするマーティンに、ブリスは社会を見るよう薦め、社会主義者の集会に連れ出す。ブリスに促されるまま演台に立ったマーティンは、社会主義のアジテーターとして新聞に書き立てられる。

この一件を契機に、マーティンの運命は大きく変わっていく。

社会主義に目を開かれたマーティンが、世間知らずのエレナを貧しい労働者たちの住むスラム街へと引っ張り出すシーンは圧巻。暴力的なまでに迫力あふれるディテールの描写が素晴らしい。

終盤、時間は大きく飛躍し、功成り名を遂げたマーティンの人生が紹介される。それは、かつてマーティンの夢見たとおりのものであったのか――。がらりと雰囲気を変えた“転調”とともに浮かび上がるマーティンの現在に、強く心揺さぶられる。

マーティン役のルカ・マリネッリが存在感あふれる演技で、2019年ヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞。

マーティン・エデン

2019、イタリア=フランス=ドイツ

監督:ピエトロ・マルチェッロ

出演:ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、デニーズ・サルディスコ、ヴィンチェンツォ・ネモラート、カルロ・チェッキ

公開情報: 2020年9月18日 金曜日 より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他 全国ロードショー

公式サイト:http://martineden-movie.com/

コピーライト:© 2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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