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映画レビュー「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」

2020年3月19日
右の三島と、左の全共闘。真っ向から対立する両者の論戦。伝説的討論会の真実が、いま明かされる。三島vs芥正彦の論戦に注目!

三島を追いつめる芥正彦

1969年5月13日。東大駒場キャンパス900番教室。東大全共闘が作家の三島由紀夫を招いて公開討論会を開いた。

この年の1月には、全共闘と機動隊との間で安田講堂攻防戦が展開され、東大入試は中止。翌年の11月25日には、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で三島が割腹自殺。

まさに激動の時代の真っただ中で行われた歴史的イベントだった。

本作は、この伝説的討論会を記録した秘蔵フィルムに、当時の全共闘メンバーや楯の会1期生、識者らの証言、解説を加えて構成したドキュメンタリーである。

何と言っても、TBSが撮影したという討論会の映像が面白い。

三島の冒頭スピーチを受け、司会の木村修が質問し、三島が答える形で進行。論敵の三島をつい「三島先生」と呼んでしまう木村が慌てて弁解する姿に、会場からどっと笑いが起こる。

その後、討論は盛り上がりを欠き、欠伸が出そうな時間が流れかける。空気を変えたのが、芥正彦だ。

自分の子だろうか、赤ん坊を肩車し、討論を見守っていた長髪の男。突然、議論に割って入るや、それまでの発言者とは全く役者が違うところを見せつける。

「あなたは日本がなければ存在しない人間」。「ぼくの祖先は日本にもどこにも見つからない」。そんなちょっとトリッキーな表現で三島の限界を突くと、返す言葉を探しあぐねた三島が、テーマを変えて自分のペースに引き込もうとする。

しかし、芥はことごとく論駁する。すると三島は苦しまぐれに問題をすり替え、そこをまた芥が突く。間髪を入れず、難解な哲学用語を駆使し、精緻な論理を組み立てる芥。

全共闘きっての論客相手に、文豪・三島が苦戦する。論理で畳みかける芥に、最後は防戦一方の三島。

ついに芥は「もう俺帰るわ、退屈だから」という捨て台詞を吐き、会場を去ってしまうのである。

当時、芥は全共闘でオルグ活動をする傍ら、前衛劇団を主宰していた。言葉に攻撃力、説得力があるのも頷(うなず)ける。

現在も演劇や舞踏の世界で活躍する芥は、討論参加者の一人として、今回撮影されたインタビュー映像にも登場し、相変わらず切れ味鋭いコメントを発している。

討論会は「右と左の議論ではなかった」と、芥は振り返る。「三島は既成の右翼が全部アメリカ万歳になったことに怒り、真の独立性を目指す全共闘と一緒にやってもいい」と考えていたと言うのだ。

「では共通の敵とは何だったのか?」との問いに「あやふやで猥褻な日本国」と即答。

割腹事件についてはどう思ったのか。

「何か演説している、鉢巻きして。また馬鹿やってるなと思った。その後、死んだって。あ、ついにやった、よかった、よかったと思った」

「よかった。よかった?」と訊かれると、「だってさ、大願成就じゃない。一世一代の大芝居を打ったんだ」。

全共闘は敗北したと言われている。インタビュアーがその点にふれると、「知らないよ、そんなこと。君たちの国ではそういうふうにしたんだろうが、俺の国ではそうなっていない」

51年前、「ぼくの祖先は日本にもどこにも見つからない」と言い放った芥の面目躍如たる発言だ。全共闘の魂は今も生きているのだ。

映画レビュー「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実

2020、日本

監督:豊島圭介

出演:三島由紀夫、芥正彦、木村修、橋爪大三郎、篠原裕、宮澤章友、原昭弘、椎根和、清水寛、小川邦雄、平野啓一郎、内田樹、小熊英二、瀬戸内寂聴  ナレーション:東出昌大

公開情報: 2020年3月20日 金曜日 より、TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー

公式サイト:https://gaga.ne.jp/mishimatodai/

コピーライト:© SHINCHOSHA(モノクロ)、© 2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会(カラー)

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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