外国映画

映画レビュー「コロンバス」

2020年3月13日
モダニズム建築の街コロンバス。ジンとケイシーは建築を語り、人生を語り合いながら、密やかな時間を共有していく。

名建築の街で出逢った二人は

インディアナ州の小さな街、コロンバス。講演ツアー中に倒れた建築学者の父を見舞いにやってきた韓国系アメリカ人のジンは、図書館に勤めるケイシーという女性と出逢う。

ケイシーは大学には行かなかったが、建築に興味があり、造詣も深い。勉強家で、話好きのケイシーは、教養のあるジンと気が合い、たびたび会って話をするようになる。

コロンバスは、アーウィン・ミラー邸、ノース・クリスチャン教会、コロンバス・シティ・ホールなど、モダニズム建築の傑作が数多く建ち並ぶことで知られる街だ。

ケイシーとジンは、この建築の街を巡りながら、社会について、文明について、人生について語り合い、密やかな時間を共有していく。

美しい風景をバックに、程よい距離感を保ちながらも、二人は知らず知らず互いにとって欠かせない存在となっていく。そのプロセスが、何とも優雅かつ慎ましやかに描写されていて、心地よい。

実は、ケイシーには工場作業や清掃のパートをしている母親がいる。男に恵まれず薬物に溺れ、現在は治療中のようだ。この母親の世話を引き受けなければいけない。そんな思いから、ケイシーは大学進学に二の足を踏んでいる。

一方、ジンには年上の妻がいるが、何となく円満な関係ではないようだ。父親とも確執がある。

こういうことは説明されるわけではなく、ストーリーの流れの中で徐々に明らかになってくる。そして、それに伴い、ジンとケイシーの人間像が、だんだんと浮き彫りにされていく。

監督および脚本は、本作が長編デビューとなるコゴナダ。変わった名前は、心酔する小津安二郎と名コンビを組んだ脚本家の野田高梧にちなんだものだという。

そういう目で見てみると、鎌倉あたりを舞台にした全盛期の小津映画を思わせるムードが、確かにこの映画には漂っている。

小津作品を愛する映画監督は少なくない。小津にオマージュを捧げたという作品も多い。しかし、たいていは小津の表面だけをなぞった思わせぶりの映像に苦笑させられるだけだった。

本作は、ローポジション、固定カメラ、カメラ目線といった、いわゆる小津調とは無縁だ。だが、端正な構図や、抑制の利いた感情表現において、小津と同じ高みに到達し得ている。その意味で、まさに堂々たる小津へのオマージュと言えるだろう。

コロンバス

2017、アメリカ

監督:コゴナダ

出演:ジョン・チョー、ヘイリー・ルー・リチャードソン、ロリー・カルキン、パーカー・ポージー、ミシェル・フォーブス

公開情報: 2020年3月14日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム他 全国ロードショー

公式サイト:https://columbus.net-broadway.com/

コピーライト:© 2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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