外国映画

映画レビュー「ミッドサマー」

2020年2月20日
映画レビュー「ミッドサマー」
白夜のスウェーデンを訪れたアメリカの学生たち。異様なカルト集団の洗礼を受け、一人また一人と地獄の底に落ちていく。

真夏の白夜の悪夢

アメリカの大学生クリスチャンは、夏休みに友人たちとスウェーデン旅行を計画する。開放的な(と彼らが信じる)北欧娘とのアヴァンチュールが目的だ。

実はクリスチャンにはダニーという彼女がいる。内緒で行くつもりだったが、バレてしまい、やむなく同行させることに。

行き先は交換留学生ペレの故郷で、ちょうどミッドサマー(夏至祭)のシーズン。到着するや、幻覚作用のあるマッシュルームを服用し、一同、夢見心地になる。

しかし、やがて、この小さなコミューンで、彼らは異様な教義の洗礼を受け、悪夢のような出来事に巻き込まれていく――。

ほぼ一日中陽光が降り注ぐ北欧の白夜。この世の楽園のような美しい自然の中、恐るべき事件が続発していく。その不気味さは格別だ。

監督はデビュー作「ヘレディタリー/継承」(18)で世界中を震撼させた若き天才、アリ・アスター。と聞くと、またまた身の毛のよだつホラー映画かと身構える向きも多いだろうが、さにあらず。

本作は、これ見よがしの仕掛けやケレン味たっぷりの演出とは無縁だ。北欧のメルヘン風な土地で、白昼堂々、粛々と遂行されていく、不条理な仕打ち。その落差に戸惑い、その情け容赦のなさに戦慄させられるのである。

ただし、不条理な出来事とは、一般社会の常識や通念に反するだけで、このコミューンにとっては、不条理でも何でもない。至って合理的な決定であり、当然の帰結なのである。

コミューンにはコミューンの掟がある。掟を破れば制裁される。一般社会で法を犯した者が罰を受けるのと同じだ。

われ知らず掟に抵触し、ペナルティを受ける若者たち。中でも、避けられぬ試練の末、ダニーを裏切ることになったクリスチャンの悲運は、何とも気の毒としか言いようがない。

映画レビュー「ミッドサマー」

一定年齢に達した老人が崖から身を投げて死を遂げる儀式。クリスチャンが処女の指名を受けて執り行う性の儀式――習慣やマナーのみならず、性的快感や痛み、悲しみなどの感情までも共有する女性たちの一体化ぶり! その極端な行動様式、風習の数々は、文化人類学的な興味もかき立てる。

映画レビュー「ミッドサマー」

穏やかで平和な外見とは裏腹に、同調圧力と不寛容が支配するカルト集団。その恐怖をベースに、主人公カップルの愛憎を、現実とも夢とも思わせる、一種のメルヘンとして仕立て上げた、アスター監督の手腕が光る、見事な1本である。

ミッドサマー

2019、アメリカ

監督:アリ・アスター

出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ヴィルヘルム・ブロングレン

公開情報: 2020年2月21日 金曜日 より、TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.phantom-film.com/midsommar/

コピーライト:© 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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