外国映画

映画レビュー「オリ・マキの人生で最も幸せな日」

2020年1月16日
フィンランド初の世界王者をかけた対戦の日が迫る。なのに、オリは一人の女性のことで頭がいっぱい。試合よりも恋が大切なのだ。

恋するボクサーの感動実話

アメリカ人チャンピオンとの世界戦に挑む、フィンランド人ボクサーの実話である。勝てばフィンランド初の世顔王者。普通なら、本人も周囲もさぞかし気合が入っていたことだろう。ところが――。

62年、夏。国中の期待を一身に背負ったオリ・マキは、決戦の日に向けて、粛々と準備を進めていた。練習また練習、減量また減量。ひたすら禁欲の日々が続く、はずだった。

ところが、である。オリは一人の女性に恋をしてしまう。友人の結婚式に出席した折、女友達のライヤと一日過ごしたオリは、彼女に夢中になってしまったのだ。

それでも、両立できればいい。恋愛が励みになればいい。しかし、オリはライヤに溺れてしまう。練習どころではなくなるのだ。

ボクサーを主人公とした映画は少なくない。その多くは、激しい練習と苦しい減量を経て、激戦を闘い、栄光を手にする、あるいは人間的成長を遂げる、というものだ。

主人公に女性がいたとしても、あくまでドラマを盛り上げるための存在であり、あえて言えば添え物に過ぎない。だが、本作で焦点が当てられているのは、本題であるはずのボクシングよりも、本来は彩りであるべき恋愛なのだ。

何しろオリはヘルシンキのマネージャー宅に滞在するにも、ライヤを同伴する始末。恋愛ファースト、ボクシングは二の次。前代未聞のボクサーなのだ。

 

ライヤは、オリがモデル女性と2ショットで収まったポスターに嫉妬したか、途中で帰郷してしまうのだが、何とオリは彼女の後を追いかけ、結婚のプロポーズ。さすがに、これで吹っ切れたか、オリは何とか計量もパスし、世紀の対戦に臨むのだが――。

ある意味、これほど破天荒なボクサーはいないかもしれない。フィンランド初の世界チャンプをかけた試合なんて、滅多にめぐってくるチャンスではない。なのに、彼の頭は恋人のことでいっぱい。

 

二人乗り自転車。湖での石投げ。川べりの散歩。映画は、オリがライヤと過ごす至上の時間を、美しいモノクロ画面の中に描き出す。

初期ヌーヴェルヴァーグ作品を思わせる映像は、16ミリフィルムで撮ったそうだが、まるで本作の舞台である62年に撮影されたかのように、この時代の空気を見事に再現し得ている。

オリ・マキの人生で最も幸せな日

2016、フィンランド/ドイツ/スウェーデン

監督:ユホ・クオスマネン

出演:ヤルコ・ラハティ、オーナ・アイロラ、エーロ・ミロノフ、アンナ・ハールッチ、エスコ・バルクゥエロ

公開情報: 2020年1月17日 金曜日 より、新宿武蔵野館他 全国ロードショー

公式サイト:https://olli-maki.net-broadway.com/

コピーライト:© 2016 Aamu Film Company Ltd

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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