米国の伝説的ミュージシャン、グレン・キャンベル。アルツハイマーを発症するも、家族に支えられながら、最後のツアーを決行する。

アルツハイマーでも音楽はやれる

グレン・キャンベル。60年代から70年代にかけて多くのヒット曲を生み、映画にも出演したアメリカの人気ミュージシャンである。69年の西部劇「勇気ある追跡」ではジョン・ウェインと共演し、主題曲も歌った。グラミー賞を6回受賞。アメリカを代表する国民的歌手の一人だ。

スタジオ・ミュージシャンとして出発。シナトラやプレスリー、ビーチ・ボーイズなど錚々たるアーティストのレコーディングに参加した後、ソロ活動に入った。

 

67年の「ジェントル・オン・マイ・マインド」のヒットでブレイク。「恋はフェニックス」、「ウィチタ・ラインマン」と、立て続けに大ヒットを飛ばし、一躍スターダムにのし上がった。

その後も、若手ミュージシャンとのコラボ、テレビ司会など、幅広い活動を展開。意気軒昂たる姿を見せていた。

衰えを知らぬポップス界のアイコン。ところが2011年、74歳のときに危機が訪れる。アルツハイマーを発症したのだ。

本作は、発病後のグレンが、記憶力の衰えと闘いながら、妻や子供たちのサポートを得て、ツアー活動を続ける様子を記録したドキュメンタリーである。

今は西暦何年? 季節はいつ? 医師の質問にグレンは絶句する。自宅でホームムービーを見ても、そこに映る女性が、自分の娘なのか、前妻なのか判別できない。

紛れもないアルツハイマーの症状。逃れられない現実を、グレンは潔く受け入れ、世間に公表する。普通なら、ここで引退するところだ。しかし、グレンは最後の力を振り絞り、“さよならツアー”を敢行する。

失敗したらこれまで築き上げてきた名声を失うかもしれない。周囲の不安をよそに、グレンは家族とともにツアーへ出る。

驚くべきことに、いざステージに立つと、グレンは見事にギターを弾き、持ち歌を完璧に歌いこなしていく。観客席を沸かせるジョークも健在だ。これがアルツハイマー患者なのか?

「観客が脳にアクセスする力をグレンに取り戻させたんだ」。U2のギタリスト、ジ・エッジはそう語る。音楽を媒介にした観客とのコミュニケーションが、グレンの脳を活性化したのだろうか。

バックバンドを務める息子や娘たち。そして、傍でじっと見守る妻のキム。彼らの愛と理解も、病と闘うグレンにとって大きな助けとなっただろう。

とはいえ、徐々に病は進行し、無様としか言いようのないパフォーマンスを披露してしまうことも。それでも、家族はグレンを温かく労(ねぎら)い、観客は拍手と歓声をもってスーパースターの奮闘を称えるのである。

暗く悲観的なトーンで語られがちなアルツハイマーを、明るく楽観的に描いた作品。将来、自分がアルツハイマーを患っても、こんなふうに生きていけばいいんだと、勇気づけてくれる映画だ。

『アルツハイマーと僕 ~グレン・キャンベル 音楽の奇跡~』(2014、アメリカ)

監督:ジェームズ・キーチ

2019年9月21日(土)より、新宿シネマカリテ、有楽町スバル座(近日公開)他全国ロードショー。

公式サイト:http://wowowent.jp/illbeme/

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