外国映画

映画レビュー「マイ・ブックショップ」

2019年3月8日
海辺の小さな町に、一人の女性が書店を開く。保守的な人々の嫌がらせを受けながらも、女性は書店を町に根付かせようと奮闘するが――。

一軒の書店が小さな町に波紋を呼ぶ

1959年、イギリス。海辺の小さな町。戦争未亡人のフローレンス(エミリー・モーティマー)は、町にまだ一軒もなかった書店を開く決意をする。それは、読書好きの亡夫と彼女が密かに温めていた夢でもあった。

銀行員に融資を渋られながらも、何とか物件を手に入れたフローレンス。“オールドハウス”と呼ばれるボロ家だが、古家ならではの味があり、手入れすれば十分に使える。さっそく開店に向けて準備を進めようとするが――。

ビートルズが登場し、英国社会を変えるのは、まだ数年先。社会全体が保守的な空気に覆われていた時代の話である。小さな町で一般の女性が書店を開くのは、大きなチャレンジだったろう。フローレンスは有形無形の圧力を受けることになる。

真っ先に立ちはだかるのは、町の有力者であるガマート夫人(パトリシア・クラークソン)である。わざわざフローレンスを豪邸に招き、“オールドハウス”を別の用途に使う提案をしたり、スパイもどきの人物を差し向けたり。あの手この手で、フローレンスの夢をつぶしにかかる。

それでも屈しないフローレンスは、ついに書店をオープン。読書家の老紳士ブランディッシュ(ビル・ナイ)をはじめ、多くの人々に歓迎される。

スキャンダラスな内容で物議を醸していたナボコフの問題作「ロリータ」の販売にも成功し、書店はいよいよ繁盛。しかし、それがガマート夫人の神経を逆撫でする。夫人は法律まで作り、書店を閉鎖に追い込もうとする。

物語の核をなすのは、フローレンスVSガマート夫人の戦いである。圧倒的に劣勢なのがフローレンス。そこで助太刀に入るのが、ブランディッシュだ。

失意のフローレンスを海岸に呼び出し、彼女を助けるため夫人に掛け合うと約束する。そのとき、ブランディッシュはフローレンスの手をそっと握る。フローレンスはブランディッシュをじっと見つめる。

「別の人生で出会いたかった」と言い残し、ブランディッシュは、その場を立ち去る。情熱的でありながら、節度があり、気高さまで漂う。思わず息をのむ、美しいシーンである。

はたして、フローレンスの戦いは、いかなる結末を迎えるのか――。

終盤の意表を突く展開から、エピローグへの鮮やかな飛躍に、激しく心を揺さぶられる。全編に流れるナレーションの主が、最後に正体を明かす瞬間も感動的だ。

本が読まれず、町から書店が消えていく。そんな昨今の社会状況に痛烈な一撃を食らわす映画でもある。

『マイ・ブックショップ』(2017、イギリス=スペイン=ドイツ)

監督:イザベル・コイシェ
出演:エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン

3月9日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー。

公式サイト:http://mybookshop.jp/

コピーライト:© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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