外国映画

映画レビュー「ウトヤ島、7月22日」

2019年3月7日
キャンプ場を襲った無差別銃乱射事件。69人の若者たちが命を奪われた。惨劇の一部始終を72分間、ワンカットで見せる衝撃作。

72分間の惨劇、ワンカットで撮影

ノルウェー、ウトヤ島、夏。キャンプを楽しもうと、大勢の若者たちが集まっている。妹のエミリアや友人たちと一緒に参加したカヤも、そんな一人だ。仲間との親睦、新たな異性との出会い……。期待に胸がふくらむ。

だが、そこに、不穏なニュースが飛び込んでくる。首都オスロで爆破事件が起きたというのだ。「テロかも」。「アルカイダの仕業か」。あれこれ議論していると、遠くで爆発音が鳴った。若者たちが走って逃げてくる。誰かが無差別に人を銃撃しているらしい。

恐れおののくカヤたち。誰が、何のために、そんなことをしているのか。オスロの事件と関係あるのか。何も分からないまま、カヤたちはその場を離れ、森へ向かって走り始める。

カメラは、逃げるカヤにピタリと寄り添い、事件を現在進行形で伝えていく。切れ目なしのワンカット撮影。観客は、逃走するカヤと一体化し、事件の恐怖をリアルタイムで体験することになるだろう。

妹を探すためグループから離れたカヤは、森の中に取り残された少年や傷ついた少女に遭遇。あちこちに転がる死体も目にする。

極限状況の中で、他人にしてやれることは限られている。カヤは自らの無力さをかみしめながら、走り続ける。

逃走の終着点は、崖下の湖岸だ。崖上から射撃されないよう、くぼんだ場所を見つけ、身を潜める若者たち。上からは断続的に銃声が響く。逃げきれなかった者たちが標的になっているのだろうか。

湖岸に救助ボートが近づく。そして訪れる、急転直下のエンディング。逃げきった者、あと一歩で命を失った者。くっきり明暗が分かれるラストに、胸を突かれる。

2011年にウトヤ島で実際に起きた無差別銃乱射事件を描いた作品。69人もの命を奪った惨劇が発生し終息するまでの72分を、完全ノーカットで再現することで、被害者の恐怖や絶望が生々しく表現されている。

『ウトヤ島、7月22日』(2018、ノルウェー)

監督:エリック・ポッペ
出演:アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン

2019年3月8日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー。

コピーライト:Copyright (c) 2018 Paradox

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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