外国映画

映画レビュー「グリーンブック」

2019年2月27日
ガサツで下品だが腕っぷしの強いトニー。セレブな黒人ピアニストのシャーリー。ふたりは、人種差別の激しい南部へと旅立つ。

白人運転手と黒人ピアニストの珍道中

粗野で下品なイタリア系アメリカ人のトニー(ヴィゴ・モーテンセン)。唯一の取り柄である腕力を買われ、高級ナイトクラブに用心棒として雇われていた。

ところが、突然クラブが閉店し、失職の憂き目に。そんなトニーに運転手の仕事が舞い込む。

相手は“ドクター”だという。てっきり医者だと思い、指定された住所を訪ねると、なぜか、そこは、かの有名なカーネギー・ホール。

顧客は、ホール上階の高級マンションに暮らす黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)だったのだ。無教養なトニーには、シャーリーが何者かはよく分からない。だが、自分とは別世界の住人であることは確かだ。

運転だけではなく、身の回りの世話まで要求されたトニーは、黒人への偏見もあって、仕事を断ってしまう。しかし、人種差別の激しい南部へのツアーを控えるシャーリーとしては、どうしてもトニーの“腕”がほしい。

シャーリーは改めて好条件を提示し、契約成立。かくして、“労働者階級の白人とセレブな黒人”との長い旅が始まるのだが――。

ニューヨークでは一流アーティストとしてリスペクトされるシャーリー。だが、南部ではただの黒人だ。あまりに露骨な差別ぶりに、トニーさえも呆然とさせられるエピソードが続出。

時は1962年。アメリカ南部では、黒人差別が合法だった。学校、トイレ、バス、プールなど、白人との共用は認められていなかった。

そんな時代に重宝されたのが、本作のタイトルともなっている「グリーンブック」。黒人が利用できるホテルやレストランを紹介したガイドブックである。南部を安全に旅行したい黒人にとっては必携の一冊だったのである。

顧客であるシャーリーが、トニーの泊るホテルよりもずっと粗末な宿を当てがわれる場面。あるいは、コンサート会場であるホテルのレストランに、演奏者であるシャーリーが利用を拒否される場面。見ていてやりきれない気分になるが、つい50数年前まで、南部では当たり前のことだったのだ。

だからこそ、警察に逮捕されたふたりが、シャーリーの電話一本で釈放される場面は痛快だ。セレブのシャーリーならではの危機脱出術。電話の相手が誰かは見てのお楽しみである。

人種差別というシリアスな問題を扱っているが、作品自体はコメディ仕立て。全編に笑いが満ちている。

雇われ人と雇い主というビジネスライクな関係から出発したトニーとシャーリー。立場も素性も何もかも正反対なふたりが、衝突を重ね、障害を乗り越えながら、しだいにタッグを組んで敵に立ち向かう“同志”へと進化していくプロセスが感動的だ。

“違い”は、しばしば反感や敵意をそそるものだが、ユーモアが介在することで、好感や好意へと転じ得る。偏見や差別心も自然と消えていく。トニーとシャーリーは、身をもってそれを証明しているように思える。

第91回アカデミー賞で、作品賞、脚本賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)を受賞。

『グリーンブック』(2018、アメリカ)

監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ

2019年3月1日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー。

公式サイト:https://gaga.ne.jp/greenbook/

コピーライト:© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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