外国映画

映画レビュー「V.I.P. 修羅の獣たち」

2018年6月14日
脱北した殺人容疑者。逮捕しようとする警察。妨害する国家情報院。三つ巴(どもえ)の攻防戦の果てに、勝つのは誰か?

殺人者をめぐる警察と国家機関との攻防

物語は、香港の裏通りから始まる。白人の男から東洋人の男がピストルを受け取る。殺し屋なのだろう。古びたビルに入ると、次々と見張りを倒し、標的の男を仕留める。殺し屋の正体も、殺された男の素性も分からない。

このプロローグに続いて、映し出されるのは、一人で道を歩く女子高生の姿である。場所は北朝鮮らしい。

車に乗った3人組の男が彼女を拉致し、ビルの一室に監禁。台に寝かせた状態で、リンチを加える。男たちは全裸。女子高生はすでに輪姦されているようだ。体は血まみれ。

命乞いする彼女の首に、リーダー格の男が針金を巻き付け、手下たちに「体を押さえつけろ」と命じる。この先は、書くのも躊躇われるほど、残酷な描写が続く。

日本公開版では、女子高生の首の部分にボカシが入っている。それだけ凄惨な映像ということだろう。

その3年後。韓国ソウルで連続殺人事件が発生する。3年前の北朝鮮の事件と手口がそっくりだ。

新任の警視チェ・イド(キム・ミョンミン)は、被害者の局部に挿入されていたナスに付着していたDNAから、キム・グァンイル(イ・ジョンソク)が犯人だと確信。さっそく逮捕に動くが、国家情報院がこれを阻止しようとする。

グァンイルは香港経由で韓国に脱北していたのだが、これを手引きしたのは、国家情報院だったのだ。さらに、アメリカのCIAもからんでいる。

グァンイルは彼らにとって重要な情報源であり、VIP待遇の対象でもあった。もし逮捕されたら彼らの責任が追及される。何としても守らねばならないわけだ。

グァンイルの逮捕に執念を燃やす警視のチェ・イド。必死で妨害する国家情報院のパク・ジェヒョク(チャン・ドンゴン)と、CIAのポール・グレイ(ピーター・ストーメア)。国家に守られながら、不敵に微笑む殺人者グァンイル。

三つ巴(どもえ)の攻防戦に、北朝鮮の工作員リ・デボム(パク・ヒスン)も加わり、物語は思いもよらぬ展開を見せる。はたして、チェ・イドはグァンイルを逮捕できるのか。グァンイルは最後まで逃げおおせるのか――。

監督は、「新しき世界」(2012)で注目を浴びたパク・フンジョン。警察と情報機関の利害対立を描きつつ、国家間の駆け引き、力関係をも浮かび上がらせ、これまでにないスケールの大きな犯罪映画へと仕立て上げている。

キャスティングで、まず注目したいのは、捜査官パク・ジェヒョク役のチャン・ドンゴン。葛藤から激昂に至る心理を見事に体現して見せている。貫禄の演技である。

だが、何といっても、輝いているのが、キム・グァンイルに扮したイ・ジョンソクだ。色白で教養もあるブルジョア青年でありながら、女性を絞殺することに無上の快楽を感じる変質者。そのイメージの落差を、爽やかな青春スターのイ・ジョンソクが、鮮やかに演じ切っている。

V.I.P. 修羅の獣たち

2017、韓国

監督:パク・フンジョン

出演:チャン・ドンゴン、キム・ミョンミン、パク・ヒスン、イ・ジョンソク、ピーター・ストーメア

公開情報: 2018年6月16日 土曜日 より、シネマート新宿他 全国ロードショー

公式サイト:http://klockworx-asia.com/vip/

コピーライト:© 2017 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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