父親は裕福なのに…
若い詩人のドンファは、恋人のジュニを実家まで送り届ける。初めて目にする家の立派な佇まいに驚嘆するドンファだったが、そこにジュニの父親が現われ、家に招き入れられる。
気さくな父親は、ドンファに愛想よく話しかけ、ドンファも父親との対話を楽しんでいる風。ただし、それはあくまで娘の恋人と父親との間に交わされる上辺だけの会話に過ぎない。

ドンファの中古車を過剰なまでに誉めたあげく、乗り込んで運転してみたり、ドンファ同様に詩を書く妻の才能を絶賛したり。無遠慮で謙遜を知らない父親のキャラは、控え目なドンファとは対照的。
ブルジョワ風な暮らしぶりも、簡素な暮らしを旨とするドンファとは正反対だ。とても反りが合うとは思えない。
父親ばかりではない。定職をもちながら詩作する母親も、実家に引きこもって伝統楽器の伽耶琴(カヤグム)を弾いている姉のヌンヒも、ジュニの家族はいずれもドンファの生き方に違和感を抱いている。

この、いわば水と油のような相容れなさが、しばしば小さな摩擦を起こし、後半の食事のシーンでは決定的な衝突を起こす。楽しい会食のはずが、いつのまにか家族がドンファを一方的に責める雰囲気になり、ドンファの忍耐が切れるのだ。
ドンファは決して貧しい家庭の出ではない。それどころか、父親はテレビにも出演する有名弁護士であり、甘えようと思えば、いくらでも気楽な人生を送ることができる身分だ。しかし、ドンファはそういう生き方を良しとしない。この設定がいい。

ドンファが裕福な家庭の出身と知っているからこそ、両親はドンファを自分たちの同類と見なし、ジュニの恋人として受け入れたのだろうと思う。なのに、なぜドンファは自分の特権を享受しないのか。両親の苛立ちは当然だ。
だが、ドンファにはドンファの生き方や事情がある。そして、ジュニはそんなドンファを愛しているのだ。

映画は、ドンファにもジュニの家族にも肩入れしない。どちらが間違っているということはないのだ。そもそも、ドンファは発展途上の人間だ。成熟し完成されたジュニの両親とは違う。
未完成のドンファが、今後どうなるかは分からない。詩人として大成するのか、挫折して平凡な人生を歩むことになるのか。
そんなドンファを見つめるホン・サンス監督の眼差しはやさしい。美しい自然に触発されて言葉を紡ぐドンファに問いかけるような表題に、若き詩人に対するホン監督の温かな思いを感じる。
自然は君に何を語るのか
2025、韓国
監督:ホン・サンス
出演:ハ・ソングク、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、カン・ソイ、パク・ミソ
公開情報: 2026年3月21日 土曜日 より、ユーロスペース他 全国ロードショー
公式サイト:https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
コピーライト:© 2025 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
配給:ミモザフィルムズ

