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映画レビュー「引き裂かれた女」

2026年2月17日
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一人の男に翻弄される女が、もう一人の男を弄び、転落していく。鬼才シャブロルが晩年期に発表したラブサスペンスの傑作。

シャブロルの映画術は洗練の極み

※「女鹿」「不貞の女」「肉屋」が公開中のクロード・シャブロル監督晩年の傑作「引き裂かれた女」(2007)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

1957年、ヌーヴェル・ヴァーグの先陣を切って長編デビュー。以来、休むことなく映画を撮り続けたクロード・シャブロル監督が、晩年期に発表したラブサスペンスの傑作だ。

著名な作家でプレイボーイのシャルル。地元テレビで人気のお天気キャスター、ガブリエル。そして、ブルジョア一家の放蕩息子、ポール。この三人の三角関係と、そこから起こる衝撃的な事件が描かれる。

最初にアクションを起こすのはシャルル。遊び半分でガブリエルに接近し、いとも易々とものにしてしまう。無垢なガブリエルは老練なシャルルの虜となるが、火遊びのつもりのシャルルにとって、彼女の一途さは重荷なだけだ。

一方、ポールもガブリエルにアプローチするが、シャルルしか眼中にない彼女はポールを見向きもしない。

百戦錬磨の色事師シャルルと、世間知らずのお坊ちゃんであるポール。勝負になるわけがない。嫉妬にかられ苦しむポールだったが、ガブリエルへの思いはつのるばかり。

そんなポールにチャンスが訪れる。ガブリエルがシャルルに捨てられたのだ。ポールは傷心のガブリエルと二人きりで旅行することに成功する。しかし、ガブリエルはシャルルへの未練を断ち切れない。

世間にはありがちな男女の三角関係。しかし、三角関係を形成する三人のうち二人がいわゆる“大人”ではなかった。この点が、唯一の大人であるシャルルの誤算だ。

シャルルにとって恋愛はゲーム。ところが、ガブリエルにもポールにも、恋愛はゲームという観念はないのだ。

二人にとって、恋愛とは、相手にのめり込み、独占すること以外の何ものでもない。遊び相手としてガブリエルという小娘を選んだことはともかく、ポールという無菌培養の世間知らずに割り込まれたことは、シャルルの不運と言わざるを得ない。

ガブリエルをしばらく遠ざけた後に再会したとき、「僕から君を守ろうとしたんだ」と、シャルルはいかにもキザな台詞を吐く。しかし、そんな歯の浮く台詞を真に受けてしまうのがガブリエル。彼女は、捨てられた後もなおシャルルへの執着を断ち切れない。

また、ポールも、ガブリエルを手には入れたものの、ベッドで彼女から受ける愛戯をシャルルから教え込まれたものと疑い、行為に没頭することができない。かくて、ポールとガブリエルは、シャルルの影に苛まれながら、同居生活を続けていく。そして、事件は起きる――。

ポールが愛する女性の過去に苦しむ姿は、シャブロルが敬愛したヒッチコック監督の名作「めまい」(1958)でジェームズ・スチュアートが演じた主人公の姿を彷彿させる。

ミヒャエル・ハネケ監督の「ピアニスト」(2001)では、ヒロインから狂った愛情を注がれる役だったブノワ・マジメル。本作では立場を逆転させ、ヒロインに狂気の愛を向けるポールに扮しているのだが、「ハンサムだが不器用、そして神経症的」という複雑なキャラクターを絶妙に演じ、鮮烈な印象を残している。

一人の男に翻弄されながら、もう一人の男を弄び、転落していく女、ガブリエルには、フランソワ・オゾン監督「スイミング・プール」(2003)のリュディヴィーヌ・サニエ。こちらも、初心な小娘であり、同時にファム・ファタール(魔性の女)でもあるという難役を好演し、シャブロル映画における異色のヒロインとなった。

息詰まるサスペンス劇を展開させつつ、男女の恋愛心理を鮮やかに描き出す。シャブロルの映画術は、まさに洗練の極みに達している。トリッキーなラストシーンも絶品。

引き裂かれた女

2007、フランス

監督:クロード・シャブロル

出演:リュディヴィーヌ・サニエ、ブノワ・マジメル、フランソワ・ベルレアン、マチルダ・メイ

公式サイト:http://www.eiganokuni.com/hiki/

配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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