日本映画

映画レビュー「Good Luck」

2025年12月11日
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旅先で出会った不思議な女性と、二日間ともに過ごすことになった太郎。恋心を募らせるも、あと一歩踏み出せない。別れの時が近づく――。

小心な青年とコロコロよく笑う謎の女性

売れない映画監督の太郎は、とある映画祭で佳作入選を果たし、授賞式出席のため、会場のある大分へと向かう。しかし、上映後のトークで司会の女性から作品を酷評され、すっかり落ち込んでしまった。

受賞パーティはキャンセル。気を取り直し、宿泊先の豊後大野へ行くと、駅前で見知らぬ女性に声をかけられる。映画祭で太郎の映画を見たのだと言う。だが、弾みかけた会話はあっさり終了。太郎は予約してあった旅館へ。

ところが、何と、その宿であの女性とばったり再会。翌朝から一泊二日の二人旅をすることに――。

引っ込み思案で、何事も受け身な太郎。永続的な人間関係は苦手だが、初対面の相手なら楽に付き合えるという未希。タイプは違うが社会性の欠落という点は共通。そんな二人の息がぴったり合ったようだ。

最初に声をかけたのも、小旅行を提案したのも未希。太郎に恋人がいることは承知の上。そんなちょっと小悪魔風でもある未希に振り回されながらも、太郎はともに過ごす時間を心の底からエンジョイしているようである。

旅行中、恋人から何度となく電話がかかってくるが、すべて無視。太郎は未希と二人きりの時間を誰にも邪魔されたくないのだ。

至近距離につめた上で、まっすぐ太郎の目を見て話す。大きな声でコロコロ笑う。これは絶対気があるに違いない。男ならそう思うだろう。

でも、「一人旅するときはイチかバチか誰かに声をかけてみるんですよ」という未希の本心は見えにくい。未希にとって太郎は特別ではなく、誰でも同じなのだろうか。

肉食系の男なら迷わず口説くだろう。だが、太郎は今まで誰にも告白したことのない気弱な男だ。

接近のチャンスは何度もある。でも手さえ握らない。傍目からは恋人同士にしか見えないのに、何ともじれったい。

滝、水中鍾乳洞、吊り橋。自転車で次から次へと景勝地を巡り、二人の思い出は降り積もっていく。太郎にとって、いや未希にとっても、かけがえのない時間が心に溜まっていっているはずだ。見ているこちらも幸福感に包まれるような、素敵なシーンが続く。

やがて別れの時はやってくる。太郎はどうするのか。未希はどんな行動をとるのか。

純情で控え目で世間ずれしていない太郎。それに対して、一体、無邪気なのか、計算高いのか、イマイチ正体をつかみかねる未希。このコンビネーションが絶妙だ。

オーディションで選ばれたという主演の二人、佐野弘樹と天野はなの自然な演技が、この映画に真実味をもたらしている。劇中、メタ構造を組み込み、演技とリアルが一つに溶け合うシーンがあるのだが、演じているのか素なのか、リアルと演技の境目が完全に消えていて驚く。

また、未希が腕を振りながら瀧廉太郎の「花」を歌い、それを太郎が遠くからケータイ動画に収めるソーンでは、目頭が熱くなってしまった。何という演出だろう。何て演技だろう。ワンカット、ワンカット、すべてが愛しい、青春恋愛映画の傑作。

映画レビュー「Good Luck」

Good Luck

2024、日本

監督:足立紳

出演:佐野弘樹、天野はな、加藤紗希、篠田諒、剛力彩芽、板谷由夏

公開情報: 2025年12月13日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム他 全国ロードショー

公式サイト:https://mapinc.jp/film/good-luck/

コピーライト:© 2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)

配給:ムービー・アクト・プロジェクト

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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