外国映画

映画レビュー「マルケータ・ラザロヴァー」

2022年6月30日
中世の戦乱の中で運命を狂わされるマルケータ。部族間の争いに巻き込まれ、敵の男に操を奪われるが、やがて愛し合う関係になる。

息を呑む映像美

13世紀半ばのボヘミア王国を舞台とした物語である。描かれるのは、部族間の衝突と戦闘。騎士や兵士が、剣、槍、弓などの武器を用いて、熾烈な殺し合いを繰り広げる。画面に現れるのは男たちばかりだ。だが、その中に一輪の花のごとき愛らしい乙女が登場する。

マルケータ・ラザロヴァー。この映画のヒロインである。男たちの戦闘に巻き込まれ、父親と敵対する領主の息子であるミコラーシュに操(みさお)を奪われてしまう。約束されていた修道女への道は絶たれるが、ミコラーシュの愛に支えられ、新たな人生を歩んでいく――。

思い切り簡単に要約してみたが、実際のストーリーは決して単純ではない。主人公のマルケータ以外にも、多くの重要人物が登場し、物語を複雑に彩っていく。

マルケータの父親で領主のラザル。ラザルと敵対する領主のコズリーク。その息子でマルケータと愛し合うことになるミコラーシュ。ミコラーシュの弟で妹のアレクサンドラと近親相姦してしまうアダム。ミコラーシュラらに襲われ捕虜となり、アレクサンドラに誘惑されるクリスティアン。

これらの人物たちが織り成すサブストーリーが絡み合い、最終的にマルケータの物語へと収斂していく。

全編にわたりモノクロ映像の美しさに息を呑む。尼僧たちが丘を上っていく場面に重なるマルケータの幻影。全裸でクリスティアンに歩み寄り、体を重ねるアレクサンドラの淫猥な姿。リアルとファンタジーとの境界を曖昧化させた、フランチシェク・ヴラーチル監督の映像魔術に酔わされる。

殺戮シーンはトリックなしの生の活劇だ。重量を感じさせる鎧と鎧、肉体と肉体のぶつかり合いが、見る者の体感に訴える。

秒速24コマの運動を止めて、静止画像に見入っていたい。そんな至高のカットが連続する。動く写真芸術。極上の映画体験。

そして不思議な音響。どこから発せられたか分からぬセリフや音が、夢幻のごとき感覚を生み出し、異様な空間を構築している。

「七人の侍」などと並び称されたそうだが、過小評価である。本作と並び立つ作品を挙げるなら、アレクセイ・ゲルマンの「神々のたそがれ」、イングマール・ベルイマンの「第七の封印」、あるいは溝口健二の「雨月物語」あたりが適当だろう。要するに、世界最高峰の作品ということだ。

映画レビュー「マルケータ・ラザロヴァー」

マルケータ・ラザロヴァー

1967、チェコ

監督:フランチシェク・ヴラーチル

出演:マグダ・ヴァーシャーリオヴァー、フランチシェク・ヴェレツキー、ヨゼフ・ケムル、ミハル・コジュフ、イヴァン・パルーフ、パヴラ・ポラーシュコヴァー、ヴラスチミル・ハラペス、ヴラジミール・メンシーク

公開情報: 2022年7月2日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム他 全国ロードショー

公式サイト:https://marketalazarovajp.com/

コピーライト:© 1967 The Czech Film Fund and Národní filmový archiv, Prague

配給:ON VACATION

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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