外国映画

映画レビュー「夜のダイヤモンド」

2026年4月9日
NEW!
現実そのままではない。全くの虚構でもない。虚実を混ぜ合わせた重層的な映像が、反ナチ映画という割り切りから観客を遠ざける。

決定されない結末

二人の少年が疾走している。ナチスに追われているのだ。背後に響く銃声。走り去って行く貨物列車。ユダヤ人である彼らは、収容所へと向かう列車から飛び降り、逃げてきたのだ。

全力を尽くして走り、追っ手を振り切るが、すでに疲労困憊だ。二人は息を荒げながら森の中を這いつくばり、地面に寝転がる。

渇く喉を潤すため、地面に突っ伏して湧き水をがぶ飲みする。しかし、食べ物はなく体力は限界。もう歩けない。弱気になる一人を他の一人が励ます。

そんな二人の頭上に、恵みの雨が降り注ぐ。天を仰ぎ口を開き、貪るように飲む。生気が戻る。やがて二人は一人の中年女性を発見。彼女の住む農家へと忍び込む――。

カメラは終始二人に密着し、彼らの逃避行を追って行く。そこだけ取れば、少年たちのサバイバル劇を生々しく描き出したドキュメンタリー風の作品だ。

だが、本作には随所にリアリズムに逆らった不思議な映像が散りばめられている。荒廃したプラハの街を自由に歩き、トラムに乗り、女性と話す少年の映像は、果たして回想なのか妄想なのか。まだ自由の身であったはずの少年が、強制収容所を意味するKLという文字が背中に記されたコートを着ているのは非現実的ではないか。

現実そのままではない。しかし、全くの虚構でもない。虚と実を混ぜ合わせた重層的な映像構成が、反ナチ映画という割り切りから観客を遠ざける。

ルイス・ブニュエルに影響を受けたという監督の告白を裏付けるように、あの有名な無声映画へのオマージュと思われるショットも複数回見ることができる。

そうだ、これは、不安と恐怖と幻覚の映画なのだ。農家で食事にありついた少年の殺人妄想やエロティックな空想もシュールな白昼夢のようだ。

この後、二人を捕獲するのが恐ろしいナチス兵士ではなく、地元の老人たちで構成された自警団なのは皮肉である。一仕事終えた老人たちが、祝盃をあげ、クチャクチャと下品な咀嚼音を立てながら食事をし、踊り興じる姿はグロテスクの一語だ。

果たして二人は老人たちの手にかかって命を落とすことになるのか、それとも再び逃亡して生き延びるのか。決定されないエンディングには、これも影響を受けたというアラン・レネの手法が見て取れる。

チェコ・ヌーヴェルヴァーグのアンファン・テリブルとも評されたヤン・ニェメツ監督の才気が迸(ほとばし)る一本だ。

『チェコ映画傑作選』で上映。他に、「火葬人」、「第五の騎士は恐怖」、短編「一口のパン」が上映される。

映画レビュー「夜のダイヤモンド」

夜のダイヤモンド

1964、チェコスロバキア

監督:ヤン・ニェメツ

出演:ラジスラフ・ヤンスキー、アントニーン・クンベラ

公開情報:2026年4月10日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー

公式サイト:https://czechfilms.jp/

Source: Národní filmový archiv, Praha

配給:コピアポア・フィルム

 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この投稿にはコメントがまだありません