外国映画

クロード・シャブロル傑作選「女鹿」「不貞の女」「肉屋」

2026年2月12日
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平穏な日常の裏側で炸裂する狂気と暴力。シャブロル円熟期の傑作サスペンス3本一挙公開。精緻を極めたドラマの凄みを堪能したい。

「女鹿」

ブルジョワの女フレデリックは、路上に絵を描く若いホームレスの女ホワイを気に入り、自宅に招く。ホワイはフレデリックに誘われるまま性的関係を結び、南仏にあるフレデリックの屋敷に住みつく。

ホワイはある日、屋敷で開かれたパーティで建築家ポールに誘惑され、関係を持ってしまう。二人の関係を察知したフレデリックは、間髪を入れずポールの家を訪ね、あっと言う間に関係を結んでしまう。

男に興味がなかったフレデリックだが、ポールは例外だった。一方、ホワイはフレデリックにもポールにも執着を見せる。不思議な三角関係が成立する。

だが、しだいにその均衡は崩れ、ホワイの精神に変化が生じていく。フレデリックとポールが愛し合う寝室のドアの前。二人の姿を想像しながらであろう、恍惚とした表情で身悶えするホワイの姿と、快楽を貪る二人の映像とをカットバックで見せるシーンが、何とも官能的だ。

乱れる内面をおくびにも出さぬホワイが不意を突くクライマックスの衝撃には、息が止まる。ブルジョワ社会の退廃と虚妄を描いた出世作「いとこ同志」(1959)のテーマを進化させた、エキセントリックな愛憎劇。

傲岸不遜さとエレガントさが同居するステファーヌ・オードランの魅力が、最大限に発揮された作品でもある。

「不貞の女」

保険会社で重役を務めるシャルルは、妻のエレーヌが浮気しているのではないかと疑いをいだく。探偵を雇って調べさせると、ペガラという作家と密会していることが発覚する。

シャルルは大胆にもペガラの自宅に乗り込み、怒りを抑え紳士的な態度で会話を始めるが、ついに忍耐が限界を超える。

突然、エレーヌの前からペガラが消えてしまう。青天の霹靂だ。ペガラの身に何が起こったのか。知っているのはシャルルだけだ。

エレーヌとしては、ペガラとの不貞関係をシャルルは知らないと思い込んでいるので、ペガラの失踪は謎でしかない。それが、あるとき、シャルルの上着のポケットから思いがけない“秘密”を発見してしまうことで、エレーヌの立場が一変する。図らずもシャルルに対し生殺与奪の権を握ってしまったエレーヌがとった行動は――。

夫婦と愛息の三人、広大な庭を抱える豪邸で営まれるブルジョワ一家の生活。妻の不貞ごときで失うわけにはいかない。そんな思いがシャルルにはあっただろう。一方のエレーヌにしても、ペガラはあくまで遊び相手なのだ。シャルルなくして自分の幸福はあり得ない。はしなくも生じる夫婦の共闘関係。

だが、それは決して打算だけではない。そこには不確かながらも愛がある。エンディングでエレーヌを見つめ続けるシャルルの視線は何を物語るのか。日本初公開。

「肉屋」

小学校の校長を務める独身女性のエレーヌ。地元の住人の結婚式で戦争帰りの肉屋ポポールと親しくなる。一緒に食事をしたり映画を見たり、楽しい時間を過ごすようになるが、村では若い女性を狙った残虐な殺人事件が続発する。

ある日、生徒を引きつれて校外学習に出たエレーヌ。おやつ休憩時に、女子生徒の顔やパンに赤いものが滴り落ちる。血だ。頭上の崖から女性の腕が伸びている。

慌てて現場に駆け上ったエレーヌは、地面にライターが落ちているのを見つけると、すかさず拾い上げ持ち帰る。それは、エレーヌがポポールの誕生日にプレゼントしたものだった。

恐怖の日々が始まる。連続殺人の犯人はポポールなのか。だが、エレーヌが咥えたタバコに火を付けたポポールのライターは、エレーヌの贈ったものだった。エレーヌの不安は消え、穏やかな時が戻る。とは言え、連続殺人は止まらない。

ある日、エレーヌが拾ったライターをしまっておいた引き出しを開けると、ライターは消えていた――。

ここからは、サスペンスに次ぐサスペンス。ヌーヴェルヴァーグきってのヒッチコキアンたるシャブロルの芸当が冴えわたる。

エレーヌが居住する学校の中を駆け回り、ドアというドアを施錠しまくるシーンに漂う切迫感。エレーヌに向けられた飛び出しナイフの恐怖。絶体絶命のエレーヌ。しかし、犯人は意表を突く行動に出る。

終盤、映画はクライムサスペンスからラブサスペンスへ。戦争で精神を狂わせた男と、過去の恋愛に傷ついた女。封印した感情を解き放った二人が、行き場を求めて逃避行するかのような、破滅的ラストに身震いさせられる。日本初公開。

クロード・シャブロル傑作選「女鹿」「不貞の女」「肉屋」

女鹿

1968、フランス/イタリア

監督:クロード・シャブロル

出演:ステファーヌ・オードラン、ジャクリーヌ・ササール、ジャン=ルイ・トランティニャン

不貞の女

1969、フランス/イタリア

監督:クロード・シャブロル

出演:ステファーヌ・オードラン、ミシェル・ブーケ、モーリス・ロネ

肉屋

1970、フランス/イタリア

監督:クロード・シャブロル

出演:ステファーヌ・オードラン、ジャン・ヤンヌ、アントニオ・パッサリア

公開情報:2026年2月13日 金曜日 より、シネマリス、Morc阿佐ヶ谷他全国ロードショー

公式サイト:https://claudechabrol2026.jp/

コピーライト:©︎Les films La Boëtie

配給:コピアポア・フィルム

 

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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