皮肉のトゲで互いに刺し合う
建築家のテオ・ローズとシェフのアイビー・ローズ。14年前、二人はロンドンのレストランで出会い、激しい恋に落ち、夫婦となった。その後、渡米した二人は双子の子供を儲け、幸せな日々を過ごしていた。
テオは売れっ子の建築家として活躍。妻のアイビーも念願だったシーフード・レストランの開業に向けて着々と準備を進めていた。資金面はすでに成功を収めていたテオが、アイビーをサポートする形だ。夫婦の力関係で言えば、明らかにテオが上だった。
しかし、その力関係が一夜にして逆転してしまう。テオの手がけた海洋博物館が、嵐による強風で崩壊してしまったのだ。テオの評価はこの件で大暴落し、失業状態に。まさに逆風が吹いたというわけだ。
ところがアイビーにとっては、これが幸運の風となる。嵐で交通路が遮断され足止めを食らった人々は、アイビーのレストランに緊急避難。たまたま店に立ち寄った料理評論家が料理を絶賛したことで、たちまち大繁盛店となるのだ。
多忙な毎日を送るアイビーの代わりに、子育てや家事を引き受けざるを得なくなったテオ。かつて情熱的に愛し合った二人の関係はしだいに悪化し、いまやカウンセラーも匙を投げるほど、修復不能なものとなっていた。そして、ついに二人は――。
「ローズ家の戦争」(89)のリメイクである。だが、両作のテイストはかなり違う。キャスリーン・ターナーとマイケル・ダグラス共演の89年版は、二人が感情丸出しで憎しみをぶつけ合い、終盤は暴力全開でバトルを繰り広げる、実にハリウッド映画らしい作品だった。
それに対し、本作はオリヴィア・コールマンとベネディクト・カンバーバッチというイギリス人俳優二人が、英国人ならではのウィットに富んだ言い回しを駆使し、皮肉のトゲでチクチクと刺し合うスタイルをとっている。
感情を抑制し平静を装いながら、互いに毒づき合う。名優二人のポーカーフェイスがいつまでもつか、その臨界点に達したときの爆発的展開と、鮮やかな幕切れが見ものである。
本作の醍醐味は、何と言っても二人のブリティッシュ・イングリッシュによる言葉の応酬。まわりの人物たちが話すアメリカ英語と彼らの英語とのコントラストが、独特の笑いを醸し出し、それが本作の最大の魅力ともなっている。完全に聴き取るのは難しいかもしれないが、可能な範囲で堪能したい。
ローズ家~崖っぷちの夫婦~
2025、アメリカ/イギリス
監督:ジェイ・ローチ
出演:オリヴィア・コールマン、ベネディクト・カンバーバッチ、アンディ・サムバーグ、ケイト・マッキノン
公開情報: 2025年10月24日 金曜日 より、 全国ロードショー
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/theroses
コピーライト:© 2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン